アライコウのノベルゲーム研究所

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国産ノベル・アドベンチャーゲーム200選 第46回『金田一少年の事件簿 ~星見島 悲しみの復讐鬼~』

『金田一少年の事件簿 ~星見島 悲しみの復讐鬼~』(ハドソン、SS、1998年)

発売元:ハドソン
初出:1998年

 本格ミステリー漫画の大ヒット作『金田一少年の事件簿』。まさに金田一以前以後と区分できるほど、このジャンルにおける影響力は計り知れない金字塔だ。『名探偵コナン』もこの作品がなければ生まれなかったかもしれず、一時期はあの少年ジャンプにさえミステリー系の作品がいくつか登場したほどだ(いずれも短命に終わったが)。
 そんな金田一のビデオゲーム化は、コナンほどではないがいくつか為されてきた。中でもひときわユニークな作風で評判を呼んだのが『星見島 悲しみの復讐鬼』である。

 スキャンダルを仕組まれ、芸能界から追いやられた人気アイドルの桂木なお。世間からの厳しい声に晒されたマネージャーの立花由布と、スキャンダルに利用された所属事務所の社長の息子が自殺してしまい、彼女はこの事件を引き起こした者たちへの復讐を誓う。一方、由布の婚約者である阿佐桐卓也もまた、恋人を奪った者たちへの復讐のために動き出していた……。
 犯人が主人公であり、完全犯罪を達成するのが目的という、現在に至るもほぼ例がないであろう斬新なアドベンチャーゲームだ。
「この作品は、犯罪を助長するゲームではなく、『金田一少年の事件簿』の世界を舞台に推理トリックを楽しむゲームです。」
 このようなメッセージが付記されるゲームも、そうはなかっただろう。

復讐に手を染める主人公ふたり

 なおと卓也のいずれかをプレイヤーキャラとして選んだあとは、選択肢を選ぶことによって読み進めるというオーソドックスなスタイルで進んでいく。いかに殺人を実行するか苦悩するふたり。何気ない選択肢がバッドエンディングへの一方通行となり、仕留めるべきターゲットに逆襲され殺されてしまうというケースもある。
 また、要所要所で「リアルタイムサスペンスモード」が挿入される。主人公を操作して逃走したり、殺人を決行するのだ。これに失敗すれば多くはそのままゲームオーバーになってしまい、濃密な緊張感が味わえる。

見つからないように逃げなければ!

 最大の敵はもちろん原作の主人公、常に鋭い推理力で殺人犯を追い詰めてきた金田一はじめだ。わずかでも計画に綻びがあれば、彼の容赦ない指摘によって逮捕されてしまう。
 難易度はかなり高く、完全犯罪などというものはやはり至難の業だということをプレイヤーに突きつける。完全犯罪達成以外のエンディングはすべてバッドエンディングになるわけだが、およそ80個という膨大な数に上る。このとき原作での歴代の犯人が登場して、同じ犯罪者である主人公にヒントを授けてくれる。金田一ならではの楽しい工夫で、なるべく多くのエンディングを見てみたいという気にさせられるのだ。

 本作の作風を他が容易に真似できないのはなぜか。単に殺人を成功させるのが目的のアドベンチャーゲームなど評判にならない……それだけではない。漫画ならではの金田一や犯人のキャラクターの強さがないからだ。
 歴代の犯人たちはそれぞれ愚かしくも悲哀を秘めており、説得力のある絵でそれが描かれてきた。本作の主人公もそれを受け継ぎ、原作をよく知るプレイヤーはスムーズにゲームに入り込むことができる。そして金田一にことごとく計画を粉砕される過程を楽しめる。そうした前提がない完全オリジナル作品で同じ事が可能であるか……非常に困難であると想像できるだろう。

 完全犯罪を成功させた後に残るのも、また悲哀だ。
 罪の十字架を一生背負って生きていくことになる主人公ふたりに、プレイヤーは思いをいたさずにいられない。証拠を掴めず犯人を捕まえられなかった金田一も最後にそのことに触れ、より印象的となっている。

 主人公に目的を達成させないために、あえてクリアを目指さない。そんなプレイスタイルさえも肯定できる希有な作品。漫画の人気に乗っかっただけではない、ミステリーアドベンチャー史に残るゲームデザインとして記憶したい。

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© 天樹征丸 / 金成陽三郎 / さとうふみや / 講談社