アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

『少女と囚人のジレンマ』レビュー:選択の囚人となりて

少女と囚人のジレンマ』(ステッパーズ・ストップ、PC、2002年)

 

 本記事は2013年9月に公開していたブログ記事の、微調整の上での再掲となる。
 有名なゲーム理論をミニアドベンチャーテイストに仕立てた小品。
 しかし小品とはいえ、その切れ味と毒はすさまじいものがある。

 


 

「囚人のジレンマ」というゲーム理論上の有名問題がある。
 共犯である囚人AとBを自白させるため、互いに隔離した上で警官が次のような条件を持ちかける。
「2人とも黙秘したら懲役2年」
「だが1人だけが自白したらすぐに釈放する。自白しなかったほうは懲役10年」
「2人とも自白したら懲役5年」
 ――つまり協調したほうが互いに利益になることは明らかだが、自分が助かりたいがために、相手を裏切り合うことが起こりうるというものだ。

「すき」を出し合おうと言うリップだが……

 本作『少女と囚人のジレンマ』は、プレイヤーのあなたと少女リップの対話から始まる。リップは何者なのか、今いる場所がどこなのか、一切の情報は明らかにされないまま、なかよしテストなるものを始めることになる。
 互いに「すき」か「きらい」のカードを選択し、「すき」同士ならば「トク」が両方とも+1。どちらかが「きらい」を選べばそちらの「トク」が+3、相手は-2。そして「きらい」同士ならば両方とも-1。
 そしてリップは「すき」を出し合いましょうと、互いに思いやることの尊さを説きながら微笑みかけてくる……。

裏切るリップ

 しかしテストが進むにつれて、徐々に不穏な空気になっていく。「なかよしテストは、パートナーとのコミュニケーションを通じてあなたのココロの価値を計ります。ゲームでもプレイするような感じで、気楽に受けてくださいネ!!」とReadmeファイルには書かれているのだが、なんとまあ白々しいことか。
「すき」が連続することもあるが、プレイヤーはリップが何度も裏切ってくるのを目の当たりにするだろう。今度こそは「すき」を出すに違いない。そう思っているときほどこの少女は「きらい」を出してくる。あまりに絶妙なバランスが憎らしいほどだ。

探索の果てに何があるのか?

 そしてテストが終わると、プレイヤーは謎の探索を始めることになる。
 このパートは「トク」が体力代わりで、進行のたびに減少していく。一定以上の「トク」が貯まっていないとクリアは不可能なのだが、はっきり言ってクリアするのは非常に難しい。プレイヤーは何度でもやり直すだろう。そしてまたリップの裏切りに遭うだろう。それでも彼女を信じてハッピーエンディングを目指したい――まさに作者の術中にはまってしまうのだ。
 私はかつて一度だけハッピーエンディングを見たことがあるが、今回このレビューを書くにあたり再プレイして……8回連続で「すき」を出してくれたのに9回目にして裏切られてしまった。本当にもう!

 アドベンチャーゲームというよりミニゲームの性格が強い作品だが、未だにその強烈なインパクトが胸に残っている。総合的なクオリティよりもアイディアでプレイヤーを惹きつける、フリーゲームのお手本のような佳作だ。

© Steppers' Stop

 


 

 老舗個人サークルのステッパーズ・ストップは、現在は商業カードゲーム製作が中心になっているようだ。しかしインディーゲームの新作もつい最近にリリースされている。今後とも精力的な活動を祈念したい。