アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

国産ノベル・アドベンチャーゲーム200選 第43回『サクラ大戦』シリーズ

サクラ大戦』(セガ、SS、1996年)

発売元:セガ
初出:1996年

 ビデオゲーム産業の拡大に伴い、1990年代後半からこの分野からのメディアミックスは急速に発展していった。中でも当時のメディアミックス作品の代表格は『サクラ大戦』シリーズだろう。ドラマCD、アニメ、ラジオ、小説、漫画、ミュージカル仕立ての舞台まで、これほど広範な展開をした作品はほとんどなかった。

有名OPの「ゲキテイ」こと「檄! 帝国華撃団」

 第1作の主題歌「檄! 帝国華撃団」はゲームの枠を超えた有名曲ともなっており、プレイしたことがなくとも聞いたことのある人は多いはずだ。
 しかしそれらゲーム外での成功も、すべては原作の完成度、ストーリーの素晴らしさがもたらしたものに他ならない。

 怪物や呪術が跋扈する太正十二年の日本。帝国海軍士官学校を卒業した大神一郎少尉は、政府直属の特殊部隊「帝国華撃団・花組」隊長に任ぜられた。大神は悪の組織との長い戦いに身を投じると同時に、華やかなる団員たちと絆を深め合っていく。
 ドラマチックアドベンチャーと称されたこのシリーズはアドベンチャーパートとバトルパートが交互に進行していく。本稿ではアドベンチャーパートに絞って述べていくが、そのシステムは後進作にも少なからず影響を与えている。

制限時間内に選択肢を選ぶ

 制限時間内に行動を選択する「LIPS(Live&Interactive Picture System)」がすべての選択肢に導入されている。これらの会話の結果によってバトルステータスにも影響を与える「信頼度」と、イベントやエンディングに関わる「恋愛度」が変化していく。プレイヤーが選択を求められる際に時間制限を設けるというのは、古くは1980年代前半にはすでに見られる*1。しかしゲームの特徴に位置づけた上で独自のシステム名を冠し、このジャンルに有力なシステムであると広く知らしめたのは『サクラ大戦』の功績に間違いない。
 また、1話完結形式を採っている。この連続アニメスタイルもすでに『魔法の少女シルキーリップ』などがあったが、次回予告アニメまで盛り込んで次話への期待を高めるのは非常にリッチで効果的だった。アニメ劇伴の経験豊富な作曲家・田中公平氏の力も大きい。

 シナリオ担当は多くのアニメシリーズの構成・脚本を手がけたあかほりさとる氏。本格的なゲームシナリオは『サクラ大戦』が初めてだったがその経験を活かし、徹底したエンタメ性のキャラクターと王道展開のスチームパンク作品に仕上げた。とりわけ看板娘である真宮寺さくらはキャッチーで、セガを代表するゲームヒロインとなっている。
 また1話完結形式のため他のヒロインひとりひとりにもスポットを当てやすく、ファンがそれぞれお気に入りを決めやすい仕組みにもなっていた。一本道の大きなストーリーの中でキャラクターたちに平等に機会を与えられるのは、ルート分岐システムのノベルゲームにはない強みだ。

サクラ大戦3 〜巴里は燃えているか〜』(セガ、DC、2001年)

 そして彼女たちを率いる大神一郎もアドベンチャーゲームの主人公としては際立った存在感を示している。強く、情にあふれ、すべての人々の幸せと平和のために命を懸ける――その熱血漢ぶりはプレイヤーが感情移入するのにふさわしい。ギャルゲー主人公らしく軟派な部分があるのはご愛敬だ。『サクラ大戦2 〜君、死にたもうことなかれ〜』(SS、1998年)では一癖も二癖もある新隊員を迎えるがその心をしっかり掴み、『サクラ大戦3 〜巴里は燃えているか〜』(DC、2001年)ではフランス・巴里に海外派遣されるも一新されたヒロインたちに受け入れられていく。誰と結ばれてもこの男ならば応援したくなる。

 本シリーズの不運は、母体であるセガがセガサターン、ドリームキャストとライバル機の後塵を拝したことで経営悪化し、コンソールビジネスから撤退を余儀なくされたことだった。『サクラ大戦4 〜恋せよ乙女〜』(DC、2002年)はこのために当初の企画から大幅に変更し、コンパクトなボリュームにならざるを得なかった。それまでが1クールのテレビアニメだとすれば劇場版最終作という趣で、物語は綺麗に完結しているとはいえファンにとっては悔しいものだっただろう。
 その後2005年、主人公を変更した『サクラ大戦V 〜さらば愛しき人よ〜』(PS2)でナンバリングタイトルは区切りとなった。2008年にはコンテンツそのものが完全終了する予定だったが*2、ファンたちの熱望により撤回。そして2019年、彼らが根強く声を上げ続けたことで完全新作『新サクラ大戦』(PS4)がついに実現した。売上面では往年のパワーは示せなかったかもしれないが、これほどのファンの存在こそ『サクラ大戦』というシリーズの最大の宝なのだ。

© SEGA

*1:例として『星子のアドベンチャー』(エニックス、PC-8801、1983年)は、コマンド入力を求められているのに放っておくとゲームオーバーというシーンがある。

*2:田中公平のブログ My Quest for Beauty「あの時から、、、新サクラ大戦へ」
https://ameblo.jp/kenokun/entry-12526073884.html