
発売元:日本テレネット
初出:1992年
1988年にファミコン、PCエンジンに次ぐ第三勢力として名乗りを上げたセガのメガドライブ。1983年のSG-1000、1985年のセガ・マークⅢと、一定の成果は出たものの任天堂の後塵を拝していた同社のコンソール機だが、メガドライブは世界市場を含めて大いに健闘し、現在でも多くのファンが存在する。1991年には周辺機器のメガCDを発売し、先輩であるPCエンジンCD-ROM²との販売競争は終始差を付けられていたものの、当時最先端のスペックで技術力をアピールした。
そんなメガドライブだが、アドベンチャーゲームはそう多くリリースされなかった(SG-1000とセガ・マークⅢも同様)。おそらくは各社ともセガハードでアドベンチャーゲームをリリースする意義をあまり見い出せなかったのだろう。しかし注目すべき作品はいくつかあり、第一に挙げたいのが『魔法の少女シルキーリップ』だ。


魔導小学校に通う魔法使い見習いのリップは、突如人間の世界で修行することになった。行き先は日本の桜が丘町。はたしてどんな出来事が彼女を待っているのだろうか……。
オープニング画面から次に進むと、メガCDの性能を活かした主題歌とムービーが流れる(この主題歌が非常に中毒性が高い)。それ自体はPCエンジンCD-ROM²の登場以来、取り立てて驚くことではないが、1話完結の形式を採った本作は各話の始まりと終わり毎にOP&EDが流れ、途中にはCMに入る直前のようなアイキャッチも用意されている。『ジーザス』や『スナッチャー』が映画的構造を志向したように、連続テレビアニメのスタイルと演出を意欲的に取り入れているのだ。のちに『サクラ大戦』などの有名作も採用しているが、その先駆けと評価できるだろう。


システムはマップ移動型だが、舞台となる桜が丘町はひとつの街を丸ごと作り上げて、移動できる範囲がかなり広い。慣れていないとどこを歩いているのかわからなくなるという欠点はあるものの、リップと人々の生活感をしっかり出したいという狙いが見て取れる。
攻略の上で重要なのが会話モード。「いかり」「悲しみ」「喜び」の3種の選択によって相手の反応が変わり、リップの評価ポイントが上下し、エンディングにも影響する。ゲームオーバーはないので、初回プレイであればどれを選んでも安心。リップをずっと怒らせたり悲ませたりして反応を楽しむのもいいだろう。
リップは人間界で多くの出会いを経験する。ライバルの魔法少女、大切な親友、いじわるな男子クラスメイト、そして数々の戦い。戦闘モードは『銀河お嬢様伝説ユナ』と同類のコマンド型だが、戦略性は未だしといったところ。アドベンチャーゲームにおけるバトルメカニクスはまだまだ未熟な時代だったが、そのことも含めて歴史に記録・記憶されるべきことなのだろう。
ともあれ魔法少女アニメのエッセンスを十二分に詰め込んだシナリオは見応え十分。硬派なゲーマーが多いとされるメガドライブ作品の中にあっても、ひときわユニークな佳作となった。そのオリジナリティが評価されたのだろう、2022年の復刻機メガドライブミニ2にも収録された。現在プレイするならこれが一番手に取りやすいはずだ。
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