アライコウのノベルゲーム研究所

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『かまいたちの夜<誘惑編>』レビュー:原作者も絶賛した分岐シナリオ

かまいたちの夜<誘惑編>』(睦月、PC、2003年)

 

 本記事は2013年9月に公開していたブログ記事の、微調整の上での再掲となる。
 フリー・同人ゲームのひとつのジャンルとして定着している二次創作。
 ノベルゲームの金字塔たる『かまいたちの夜』もその対象になっていたのだった。

 


 

 ノベルゲームというジャンルの成立に大きく寄与した『かまいたちの夜』。大ヒットしたこの作品は当時様々な展開をしており、読者公募されたアナザーストーリー『あなただけのかまいたちの夜』もそのひとつだった。ユーザーの手で自由に選択肢を作って新たな分岐を生みだしてみようという試みだ。
 この企画で「かまいたち大賞」を受賞した作品をメインシナリオに据え置き、フリーノベルゲーム化したものが『かまいたちの夜<誘惑編>』。つまりは原作者の我孫子武丸氏が太鼓判を押したわけで、まずは安心してプレイしていただきたい。

ケーキが何者かに食べられてしまった?

 途中までは原作通りに進むのだが、ポッと現れた新たな選択肢が、ユーザーを驚愕の世界に誘惑する。ペンションのオーナーが作ったケーキがいつの間にか食べられてしまい、その犯人を探し出す――殺人はまったく起こらず和気藹々としたシナリオなのだが、この日常描写がとても楽しい。あいにくとシルエットはないが、テンポ感はオリジナルそのままで、思わずクスリとさせられるネタも随所に散りばめられている。
 しかし使用されているトリック(?)はなかなかに手強い。判明してみればなんてことはないのだが、正しい解答に至るまでは、何度となくバッドエンディングに遭遇し、やり直しをさせられることだろう。そうして迎えたトゥルーエンディングには一種の温かさを感じるはずだ。

はたして犯人は

 エンディング数は16個と多く、全部を見るのには苦労する。選択肢が多いからというのもあるが、なんとセーブスロットが1個しか用意されていない。これはスーパーファミコン版を踏襲したがゆえの仕様らしい(本当ならオートセーブのみにしたかったとか!)。ユーザーに不便を強いてでも原作をリスペクトするというのも、フリーゲームならではだろう。私はシステムが「改善」されたプレイステーション版もプレイしたことがあるが、どこでもセーブでき、フローチャートが搭載され、一度選んだ選択肢がわかるようになっているのを見て――便利になったものだと思いつつ、容易にやり直しできないあのシステムがかまいたちを名作たらしめたのではとも思ったものだ。

 ストーリーの面白さはもちろんだが、原作の偉大さを再確認するのにも適している。やはりノベルゲームの王者はかまいたちであると、私は本作をプレイするたびに感慨深くなる。

 


 

 原作の大ファンということもあるが、私にとってはフリーノベルゲームにもっとも熱中していた頃の忘れがたい作品だ。
 そんな『かまいたちの夜<誘惑編>』だが、現在リメイク計画が進行しているという。

 現行バージョンもダウンロード可能だが、こちらも心待ちにしたい。