
本記事は2013年9月に公開していたブログ記事の、微調整の上での再掲となる。
2002年当時としては驚くほどの総合度の高さ。
特にAIガールMIKANのキュートさは今も色褪せない。
2000年代、背景素材のやりくりに苦労するフリーノベルゲームは、その多くが現代やファンタジー世界を舞台にしており、地球外を舞台にしたSF作品は少なかった。そんな中で『遠来』は印象的だった。ベクターダウンロード数20万超えの*1、2000年代のフリーSFノベルゲームを代表する作品である。
人類が地球上の国境全てを廃し、地上全ての紛争を捨て、
外宇宙への進出を果たしてから30年。
宇宙開拓黎明期に果たした銀河連盟への加盟により、
地球圏は恒久的な平和を手に入れていた。
時は宇宙暦353年。
人類は文明の黄金期を謳歌していた。――公式サイトより
宇宙を航行中の冒険家フタバ・ヨウイチは、事故によりやむなく未知の惑星に降り立った。そこで彼はひとりの少女と出会う。3Dムービーで見せるオープニングは、フリーゲームでもここまでやれるのかと実にワクワクを掻き立ててくれたものだ。

不時着後、AIガールのMIKANとの会話が始まるのだが、彼女がとても可愛らしい。人間をはるかに凌ぐ演算機能を持ちながら、おっちょこちょいでよくドジるという設定も良好。本作が人気を博した要因は、彼女にあるといっても過言ではない。またBGMがすべてオリジナルなのだが、「MIKANのテーマ」はフリーノベルゲーム史上屈指のテクノポップと私は思っている。一度聞いたら忘れられないメロディだ。

肝心のシナリオだが、少女――マヤオア・エナサ(逆から読んでみよう)との交流が大部分を占めており、フタバを嗅ぎ回るジャーナリストの存在が若干の緊張感をもたらすが、はっきり言って大きな起伏はない。巧みなSFを期待するより、マヤオアとのハートフルな触れ合いを楽しむ作品なのだと割り切ろう。ヒロインとしてはいささか地味なルックスだが、とてもいい子で癒やされる。
当時のフリーノベルゲームとしてはトップクラスのグラフィックと心温まるシナリオ、そして良質なBGMと三拍子揃った佳作。ちなみに私は本作のイメージサウンドトラックを持っていて(当然今では入手困難)、ひそかな自慢である。
© Team NagiKaze
本作の公式サイトはすでにないが、ゲームファイルは今もベクターでダウンロード可能で、Windows 11での起動も確認している。
*1:『遠来 イメージサウンドトラック』より。