アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

『グッバイトゥユー』レビュー:殺人者への袋小路

グッバイトゥユー』(沢山ソフトウェア、PC、2004年)

 

 本記事は2013年10月に公開していたブログ記事の、微調整の上での再掲となる。
 私が今でも完成を待っているフリーノベルゲームの筆頭。
 とにかく本当に面白いので、未プレイの方はぜひ試していただきたい。

 


 

 今、私がもっとも完成を待ち望んでいるフリーノベルゲームは何かといえば、この『グッバイトゥユー』を第一に挙げる。どうしてこんなに面白いのか! 当時身を焦がれるような思いでいたことをよく覚えている。

哀れみを持って制裁を下す

 権力者の息子で殺人鬼でレイプ魔という、最悪な人物の一人称から始まるオープニングにまず肝を潰す。まさかこんなやつが主人公なのか? と思わせておいて、この最悪な彼はからんだ若い二人組に逆に殺されてしまう。その光景を、真の主人公である夏川都市が目撃する――このトップからハイスピードな展開にスリルを感じないプレイヤーはいないだろう。シナリオの吸引力は並々ならぬものがある。

 若い二人組は、警察すら手を出せない悪人に制裁――死を加える殺人集団の一員であり、都市は彼らに加わる決意をする。
 殺人者の仲間入り。ここからが本当の物語の始まりになる。しかしこれは袋小路以外にはありえないだろう。一般の幸せなど望むべくもなく、誰に尊敬されることもなく、屍を作っていくのみ。プレイヤーはそんな登場人物たちの葛藤と悲劇に、悲哀を覚えずにはいられないはずだ。

究極の選択

 本作の能力者は「Kタイプ」と呼ばれている。それぞれがユニークな能力を持っているあたりは某人気ジャンプ漫画等を彷彿とさせる。決してオリジナリティのある設定ではないのだが(主人公も人の動きを先読みできるというありがちなもの)、ストーリーの緊迫感も相まって、彼らの戦いは恐ろしいほどに手に汗握る。それこそ半端な商業作品より面白いのだ。欠点を探そうと思えばいくらでもあるだろう。しかしそれらを吹き飛ばす圧倒的パワーは、同じライターとしてうらやましいほどである。

 作者はよほどお忙しいのだろう、かれこれ5年以上も新エピソードの発表がない。しかしエンディングの構想はあり、完成への意欲はあるようなので、いつまでも待ち続けたい。この先に、怖いもの見たさに似た楽しみがある。

© 沢山ソフトウェア

 


 

 ――と書いてから、早10年以上。
 公式サイトは2025年現在も存続中で、ゲームファイルもダウンロード可能。
 今も続きを待っている、と言うのは作者にとっては負担であるかもしれない。それでも言わずにはおれないほどの、忘れられない作品なのだ。