アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

『蝶葬』レビュー:前代未聞の坊主愛憎ノベルゲーム

『蝶葬』(蘆屋、PC、2007年)

 

 本記事は2013年9月に公開していたブログ記事の、微調整の上での再掲となる。
 ボーズ・ラブ――このワードに当時大きな衝撃を受けた。
 しかしこの発想一本の勝利ではなく、細やかに作られた佳作なのだ。

 


 

 過去、日本国において男色は決して珍しくはなかった。女人禁制である仏寺においても、僧たちが互いに友情以上の交わりを重ねることは、しばしば見られる光景だったのである。

 この歴史的経緯も踏まえたであろう、「ボーズ・ラブ」なるジャンルをひっさげ、発表当時フリーノベルゲーム界隈で大きな話題を呼んでいたのが『蝶葬』だ。坊主とボーイズ・ラブを合わせてボーズ・ラブ。誰が最初に考えたのかは知らないが、少なくとも2007年には生まれていたわけである。BL史上における最大級の発明に違いない……とは言い過ぎだろうか。

今日も張り合う修行僧の英信と連生

 いつも衝突してばかりの修行僧、英信と連生はその日も他愛ない勝負をしていた。そんな折、大僧正が亡くなったという報が入る。境内に走る衝撃。そしてこれをきっかけに、僧たちの間に複雑な感情が交錯しはじめる……。描かれるのは細やかで背徳的な人間模様だ。性描写も多少あるが直接的ではないので、これが苦手な人も大丈夫だろう。

 文章はプロ級に上手く、読んでいくのが快適。好意、哀切、嫉妬とキャラクターの心情描写が流れるように入り込んできて、非常に心地よい作風だ。
 グラフィックはほぼすべてモノクロで、特徴的なキャラクター表示と一枚絵表示が、作品の世界観をよく引き出している。あらゆる素材が寺の静かで質素な空気を演出しており、素晴らしい調和感を味わえる。不可解な大僧正の死を巡り、後半からは緊迫感も生まれてくる。最後まで非常に楽しく読める短編だった。

随所に挿入される印象的なモノクログラフィック

 ボーズ・ラブという発想だけに頼らない、良質なクオリティ。女性向けということになるのだろうが、男性でも楽しくプレイできるのではと思う。女性向け作品はしばしば、男性向けではとてもできない発想の作品が生まれるが、『蝶葬』もそうしたポテンシャルを秘めた佳作だった。

© 蘆屋

 


 

 現在、サークルサイトはすでに消失しておりゲームもダウンロード不可能だが、加筆修正された小説版が作者のBOOTHで販売されている。興味を持たれた方はこちらをどうぞ。

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