
※画像は改編版の『みちのく秘湯恋物語 kai』(PS、1999年)
発売元:フォグ
初出:1997年
フォグは1990年代後半から2000年代にかけて、いくつもの良作を送り出したノベルゲームメーカーだった。とりわけ歴史恋愛ノベル『久遠の絆』と、旅をテーマにした『風雨来記』シリーズは知名度・人気ともに高い。
そんなフォグのデビュー作となったのが『美少女花札紀行 みちのく秘湯恋物語』。前述の2作に比べればマイナーだが、旅ゲーというジャンルのパイオニアとして注目されるべき作品だ。
カメラマン志望の大学生である主人公・天草遊也は花札の家元(現実にそんなものはないが気にしないでおこう)の生まれ。親からは家督を継ぐことを求められているが、夢を追うためにも写真コンテストで入選しなければならない。撮影旅行のために東北を訪れた彼は、そこで魅力的な少女・佐藤朱鷺子に出会う……。


平泉、遠野、田沢湖、十和田湖、恐山といった実在の観光名所を巡りながらヒロインたちと交流を深めていく。まずこのコンセプトが当時珍しかった。
ノベル・アドベンチャーゲームにおいて、地方の土地・施設を舞台にした作品はそれまでも少なからずあった。『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』は北海道の名所が多数登場し、近年は公式ツアーも組まれるほど。『かまいたちの夜』の舞台となった長野のペンションは発売以来宿泊に訪れるファンが絶えない。
しかし『みちのく秘湯~』のように旅と観光そのものが主目的となっているゲームは異例だったのだ。色彩豊かな現実の景色を多数収録し、物語上の背景とする。プレイヤーに実際に旅している気分を味わわせる――このコンセプトは32bitゲーム機時代に入ってようやく可能になったものであり、フルポリゴン3DCGや高品質アニメーションとはまた別種の魅力を備えていた。


本作のもうひとつのメインは、ヒロインたちに写真のモデルになってもらうための花札勝負(こいこい / 花合わせ)。ルールはよく知られているもので、初めてという人でもすぐに馴染むことができるだろう。
運に左右されることが大半のこの勝負、CPUは容易に勝たせてくれないことも多く、ゲームバランスは今ひとつというところだった。しかしヒロインたちの美しい写真を撮り、アルバムを埋めていくのはこの上なく楽しい。写真撮影を楽しむゲームは今では珍しくないが、この分野でも開拓者のひとつと評することができるのではないか。
一見ギャルゲーではあるが、旅をしている雰囲気をメインに楽しんでもらうため、シナリオは一般ユーザーを強く意識したという。
そうして生まれたのが目的のはっきりしている主人公と、それぞれにバックグラウンドを持つヒロインたち。彼らの織り成すストーリーは好評を博し、続編を出してほしいという声も多かったという。やがて直接的な続編ではないが、ファンの期待に応える形で『風雨来記』が生まれることになるのだ。
フォグは2021年に法人としては解散したが、日本一ソフトウェアのブランドとして現在も存続している。本作もつい最近にグラフィックをリマスターしたSteam版がリリースされたので、興味のある方はチェックしてみよう。
© FOG / Nippon Ichi Software, Inc.
【参考文献】
『美少女花札紀行 みちのく秘湯恋物語 オフィシャルコンプリートワークス』(高橋書店、1997年)