アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

ノベルゲームの構造と演出 進行構造8「ストーリーとしてのループ」

 ストーリーとしてのループとは、プログラム処理の結果を伴わずにループを表現することだ。前回触れたように、一般にループ系というとこちらを指すことが多いだろう。

STEINS;GATE』(5pb.、2009年)
※画像はSteam PC版(MAGES.、2016年)

『STEINS;GATE』は主人公の岡部倫太郎らがふとしたことからタイムマシンを発明し、これが引き金となって岡部と仲間たちは過酷な運命に巻き込まれていく。2010年代以降のループ系ノベル・アドベンチャーゲームでは、もっとも著名なもののひとつだ。
 ストーリーの特徴は各ヒロインのルートが一本に繋がっていることで、個別エンディングに至る以外は分岐していないこと。岡部はメインヒロインの救出のために「世界線」の移動――タイムリープを繰り返すが、その合間にサブヒロインたちが抱える問題に直面する。
 当初の目的を目指すということは、その世界線でのサブヒロインたちの救済を諦めるということでもある。しかしその経験を糧として岡部は前に進まなければならない――これが本作のストーリーデザインの妙である。「なかったことにしてはいけない」はテレビアニメ版の主題歌にも採用された印象的なフレーズだ。

ChuSingura46+1 -忠臣蔵46+1-』(inre、PC、2013年)
※18禁

『ChuSingura46+1 -忠臣蔵46+1-』は現代の学生である主人公が江戸時代、忠臣蔵の舞台にタイムスリップする。
 こちらは順々に新たな章が解放されていくタイプで、最初のルート「假名手本忠臣蔵編」では、一般に知られている忠臣蔵の物語に沿って展開する。紆余曲折を経て討ち入りは果たされるが、最終盤で主人公はループし、物語の開始時点にまで戻ってしまう。それからプレイヤーはいったんタイトル画面に戻って新たな章を選び、従来の忠臣蔵とはまったく異なる物語を読み進めていくことになる。ストーリーの区切りをはっきり付けたい場合に有効な手法だ。

ひぐらしのなく頃に 鬼隠し編』(07th Expansion、PC、2002年)

『ひぐらしのなく頃に』はオリジナルの同人版で連作形式を採っており(年2回のコミックマーケットに合わせて制作されていた)、これも順々に新たな章を解放していくタイプに分類できる。
 次の版がリリースされるまでの間、当時のプレイヤーたちはゲーム外でさまざまな推理を繰り広げていた。これがループ系の作品であると考えていた人も少なくなかったと思われる。しかし正式にそうであると判明したのは、かなり終盤になってからのことだった。
 実はこの作品はループ系である――どのタイミングでその根幹となる情報を明かすのか? クリエイターにとっては最大の楽しみであり、腕の見せ所となるだろう。

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